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広島地方裁判所 昭和30年(行)15号 判決

原告 成宮惣五郎

被告 広島国税局長

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三十年四月九日附でなした、廿日市税務署長の広島市紙屋町三十四番地宅地百二十坪六合九勺の再評価額等の更正処分に対する原告の審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

原告は昭和二十一年三月前記土地を株式会社広島銀行から代金八十六万円で買受け、昭和二十六年八月これを株式会社住友信託銀行に代金六百五十二万円で売渡したので、資産再評価法に則り、昭和二十八年二月十八日廿日市税務署長に対し、右土地の取得価額八十七万七千五百円(買受代金額八十六万円に買受に要した経費一万七千五百円を加えた金額)に同法所定の倍数十五を乗じた金額千三百十六万二千五百円を再評価額、右土地の譲渡価額六百二十七万円(売渡代金額六百五十二万円から売渡に要した経費二十五万円を控除した金額)から取得価額八十七万七千五百円を控除した金額五百三十九万二千五百円を再評価差額、右再評価差額に同法所定の税率百分の六を乗じた金額三十二万三千五百五十円を再評価税額とする再評価の申告をなした。ところが右土地については、原告から株式会社広島銀行に対する買受代金完済前に金融機関経理応急措置法が施行され、右土地のような金融機関の旧勘定に属する資産の処分は禁止された関係上、同銀行において大事をとり、同銀行と原告との間の売買契約書は同銀行の旧勘定の最終処理の完了後たる昭和二十四年六月附で作成され、それまでは売買の予約及び賃貸借契約の形式がとられていたゝめか、廿日市税務署長は昭和二十八年三月十七日原告に対し、原告の右土地の取得時期を昭和二十四年六月と認定の上、買受代金額をそのまゝ再評価額とし、再評価差額及び再評価税額を零とする更正処分をした。そこで原告はこれを不服として昭和二十八年四月四日被告に対し審査の請求をしたが、被告は同月九日附を以て原告の右審査請求を棄却する旨の決定をした。しかしながら前記のとおり原告が真実右土地を取得したのは昭和二十一年三月であるのに、これを昭和二十四年六月と誤認して右土地の再評価額を定めた廿日市税務署長の更正処分は失当であるにもかゝわらず、右更正処分に対する原告の審査請求を棄却した被告の決定は違法であるから、原告は右決定の取消を求めるため本訴に及んだものである。なお右審査決定が取消され原告主張どおりの再評価額が認められるべきものとなれば、右土地の譲渡所得を含む原告の昭和二十六年度の総所得金額は当然大幅に減額されることになるので、原告は右決定の取消を求める法律上の利益を有する。以上のように述べた。

被告指定代理人は本案前の申立として主文同旨の判決を求め、その理由として、原告の本件訴は原告の申告税額を減額した更正処分を取消して原告の納付すべき再評価税額を増額すべきことを前提として右更正処分を是認した被告の審査決定の取消を求めるものであるから訴の利益を欠くものとして却下されるべきであると述べ、本案につき、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、原告が株式会社広島銀行から買受けた前記土地を昭和二十六年八月株式会社住友信託銀行に代金六百五十二万円で売渡したこと、及び原告のなした再評価の申告、審査請求、廿日市税務署長のなした更正処分被告のなした審査決定の各内容及びそのなされた日時はこれを認めるが、右更正処分及び審査決定は正当な事実認定のもとになされたものであつて、これを取消すべき理由はない、と述べた。

理由

一般に行政処分に対する抗告訴訟により該処分の違法を理由にその取消を求め得るものは右処分により自己の権利乃至法律上の利益を直接侵害されたものであることを要するので、本件において原告がその取消を求める被告の審査決定が原告の権利乃至法律上の利益を侵害したものであるか否かを先ず判断するに、原告の主張するところによると、右審査決定は原告所有の広島市紙屋町三十四番地宅地百二十坪六合九勺につき原告が資産再評価法に基いてなした申告にかかる再評価額を減額し再評価差額及び再評価税額を零とした廿日市税務署長の更正処分に対する原告の審査請求を棄却し、右更正処分を維持したものであるというのであつて、右更正処分は原告の右土地についての再評価税納付義務の不存在を宣したにとゞまり、原告は右処分従つてこれを維持した被告の審査決定により何等その権利乃至法律上の利益を侵害されたものでないことが明らかであるから、原告は右審査決定の取消を訴求する法律上の利益を有しないものと云う外はない。原告は右訴の利益の原因として、前記土地につき原告の申告どおりの再評価額が認められるか否かにより右土地の譲渡による所得金額が大幅に左右されると主張するけれども、資産再評価法にいわゆる基準日(本件については昭和二十五年一月一日)において個人の所有する土地につき基準日以後に譲渡があつた場合においては、法律上当然に再評価が行われたものとみなされ、法定の算定方法に則つた再評価額を基準として該土地の譲渡所得金額が決せられるべきものであつて、不当に低額な再評価額の算定に基き譲渡所得金額が決定された場合には直接、右譲渡所得金額を含む当該年度の総所得金額の決定処分を違法として争えば足りるのであるから、本件のような場合に、再評価額と譲渡所得金額との不可分性のみを理由に、たゞ再評価税徴収の前提処分としてなされた再評価額の減額更正処分により、原告の権利乃至法律上の利益が害されたものとすることはできない。

よつて原告の訴はその利益を欠くものとしてこれを却下することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上主文のとおり判決する。

(裁判官 宮田信夫 西俣信比古 横山長)

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